映画『フェラーリ』は、イタリアの名車メーカー「フェラーリ」の創業者、エンツォ・フェラーリの波乱に満ちた1957年を描いた作品です。
本作は、彼の経営や家族関係、さらにはレーサーとしての情熱と葛藤を深く掘り下げ、視覚的にもドラマティックに描写しています。
以下では、この映画の中で表現された重要なテーマを考察します。
考察① エンツォ・フェラーリの内面の葛藤
映画『フェラーリ』が最も強く描いているのは、エンツォ・フェラーリという人物の内面的な葛藤です。
彼は1960年代のイタリアにおける自動車業界の雄として知られていますが、この映画ではその成功の陰にあった人間ドラマを掘り下げています。
まず、エンツォの家庭内の困難が重要なテーマとして取り上げられています。
息子ディーノを失ったことにより、彼と妻ラウラの関係は冷え切り、さらに密かに愛人リナとの関係が複雑に絡み合います。
この私生活の問題は、彼が抱えるビジネスの危機と並行して描かれ、視聴者に対してエンツォの内面が如何に複雑であるかを伝えます。
特に、彼の二重生活が妻に知られ、家族関係が崩壊寸前となるシーンは、彼がただのビジネスマンではなく、情熱に溢れる一人の男であることを印象づけます。
考察② 歴史的背景と映画のリアルな描写
映画のもう一つの強みは、史実を忠実に再現している点です。
1957年の時点でフェラーリ社は経営難に直面し、ライバル企業の台頭や、商業戦略の失敗がその要因として描かれています。
この年、エンツォは会社の存続を賭けて公道レース「ミッレミリア」に挑戦します。
映画はそのレースに関する詳細を緻密に再現しており、車のデザインやレース中の描写に多大なこだわりを見せています。
特に、当時の車を正確に再現するために、3Dスキャン技術を駆使して撮影用の車を製作し、当時のリアルな雰囲気を伝えるための努力が随所に感じられます。
また、レース中に起こる事故のシーンは、単なる視覚的な演出にとどまらず、当時の危険なレース環境を真摯に表現しています。
このように映画は、単なるヒューマンドラマに留まらず、時代背景や実際の出来事をしっかりと反映させ、観客に深い印象を与えています。
考察③ エンツォ・フェラーリの矜持とプライド
エンツォ・フェラーリの矜持やプライドも本作で重要なテーマです。
彼は、自身の誇りを守るために、企業買収やスポンサーシップの提案を断る場面が描かれています。
特に、過去に資金援助を断られた経験から、フィアットからの援助を受け入れない決断を下します。
その一方で、彼は困難な状況に立ち向かうため、レースでの勝利に命をかけます。
映画では、この矛盾する思いが織り交ぜられ、エンツォがいかにして自らのプライドと企業の存続を天秤にかけるかが描かれます。
彼の「死ぬ気で走れ」という言葉には、単なるスポーツ精神以上の、人生に対する強烈な覚悟が感じられます。
このようなエンツォの心情が映画の中で巧みに表現されており、観客は彼の決断を共感しつつ見守ることができます。
まとめ
映画『フェラーリ』は、エンツォ・フェラーリという人物の多面的な魅力を余すところなく描き出しています。
彼の私生活、ビジネスの危機、そしてレーサーとしての情熱が絡み合い、観客はただの伝記映画を超えた深いドラマを体験できます。
また、史実に基づいたリアルな描写や、エンツォの矜持に対する強いこだわりが映画に深みを与え、ただのレース映画にとどまらず、ヒューマンドラマとしても優れた完成度を誇っています。
そのため、車に興味がない人でも、映画としての面白さを十分に感じられることでしょう。
歴史的背景や人物像をしっかりと理解しながら観ることで、より深い感動を得られる一作です。