映画「ラストマイル」の考察まとめ

映画『ラストマイル』は、物流業界を舞台にしたサスペンス作品で、物語の中心には爆弾が仕掛けられた荷物が登場します。この映画は、物流センターで働く人々の葛藤や、キャラクターの心理描写が巧妙に絡み合っています。今回はこの映画のいくつかの側面を考察し、物語の深層に迫ります。

目次

考察① 主人公の精神的葛藤とキャラクター描写

映画の主人公は、物流センターで働くキャリアウーマン。彼女は一見、仕事一筋で冷徹な人物に見えますが、次第にその内面が揺れ動きます。この変化は、物語の大きなテーマである「人間の心理と道徳的ジレンマ」を象徴しています。

初めは、株価を気にして周囲の人命を軽視する姿勢が強調されます。爆弾事件が起きても、彼女はあくまでビジネス優先で行動し、冷徹に問題解決を試みます。しかし、物語が進むにつれて彼女の態度は急激に変わり、事件の真相に迫るために自らの感情や正義感を剥き出しにしていきます。特に、恋人が事件の犯人である可能性を知ったとき、彼女は急に正義感を振りかざすようになります。この急転直下の心理的変化に対しては、視聴者の中には納得しきれない人も多いかもしれません。

この描写は、キャリアウーマンが抱える精神的な不安定さを表現しているとも言えますが、物語としては少々唐突に感じられる部分もあります。心理描写にもう少し時間をかけ、彼女の心情の変化に自然な流れを持たせることができれば、より深みのあるキャラクターに仕上がったのではないかと思います。

考察② 脚本と物語の進行

本作の脚本を手掛けた乃木明子は、過去の作品でも社会問題に焦点を当てた作品を数多く生み出してきました。しかし、『ラストマイル』においては、彼女が持ち味とする社会問題の提示が、やや表面的に感じられる部分があります。

映画のストーリーは、物流センターで発生した爆弾事件を軸に進行しますが、犯人の動機や事件の背後にある社会問題について掘り下げが足りないと感じました。結局のところ、事件は「犯人を追い詰め、社会が少し変化する」といういつものパターンに収束しますが、そこに新しさや深い洞察を見いだすことは難しいです。

また、物語の中で登場するキャラクターたち、特に『アンナチュラル』や『ミウ 404』からのゲストキャラクターたちは、映画の雰囲気を一層盛り上げるものの、物語の進行にはあまり大きな影響を与えていません。これらのキャラクターたちは、あくまで「お得感」を提供するための存在に過ぎず、物語に深みを加えるような役割を果たしているわけではありません。

脚本としては、もう少し個々のキャラクターが事件の解決に対して積極的に関わり、協力していく描写があれば、物語が一層魅力的になったのではないかと感じました。

考察③ 爆弾と物流センターという設定

『ラストマイル』の舞台となる物流センターは、現代社会における重要なインフラを象徴しています。ここでは、荷物が世界中を駆け巡り、さまざまな人々の手に渡りますが、その一つに爆弾が仕掛けられているという設定が、非常にユニークです。この設定は、現代社会の便利さとともに潜むリスクを浮き彫りにし、観客に対して警鐘を鳴らす役割を果たしています。

しかし、映画内で描かれる爆弾の威力には少し疑問が残ります。爆弾が爆発した際の衝撃や破壊力の描写が、物語の進行に都合よく調整されているように感じられる場面もあります。たとえば、爆弾が引火するシーンでは、「なぜこの程度の爆発で済むのか?」という疑問が生じます。また、爆弾を仕掛ける方法やその後の展開も、やや不自然に思える部分があり、設定のリアリティに欠ける印象を受けました。

物流センターという舞台自体は非常に魅力的であり、現代社会の隠れた問題を浮き彫りにするために効果的な場所として機能していますが、その設定を活かすためには、もう少し緻密な描写が求められたように思います。

まとめ

映画『ラストマイル』は、物流業界を舞台にしたスリリングなサスペンス作品でありながら、登場人物や物語の描写においていくつかの課題が見受けられます。特に、主人公の急激な心理変化や脚本の進行における表面的な社会問題の提示は、物語の深みを欠いていると感じました。しかし、物流センターという舞台や爆弾事件という設定は非常にユニークで、現代社会におけるリスクを象徴する重要な要素となっています。

全体としては、視覚的に楽しめる部分も多く、ドラマティックな展開もあるものの、物語に込められたメッセージやキャラクターの成長に関しては、少々物足りなさが残る作品と言えるでしょう。それでも、物流というテーマを扱った映画としては、視覚的に引き込まれる部分も多いため、楽しむことはできる作品です。

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